サラダ油は毒です

投稿日:2021/07/29

1.サラダ油は毒です

平成31年1月6日、私たちは並木先生とアイルさんのコラボワークショップに初めて参加した。並木先生は大人気で、講演会のチケットを取るのはかなり難しかった。会場はいつも通り女性の熱気であふれかえっていた。

いつものように普段のおしゃべりから太陽シンボルの使い方、松果体の活性化ワークへと流れるように話が続く。

突然、「サラダ油は毒です。皆さんは、えごま油や亜麻仁油など良い油を摂るように心がけていると思いますが、大切なのは引き算です。サラダ油を摂らないようにしましょう。」と話し始めた。

それは、まるで私が普段使っている言い回しそのものだった。特に、「引き算しましょう」は私の口癖だった。始めは私とそっくりな話をする人だと思ったが、並木先生は油について研究してきたはずはなかった。

並木先生は、私のハイアーセルフと繋がり、私が普段しゃべっている口調でしゃべることができるのだ。それは途方もない能力だった。ゲリー・ボーネルもアカシックレコードにアクセスすることができるかも知れない。しかし、会場の任意の人のハイアーセルフから必要十分な情報を引き出し、尚且つ人々に語れる能力とは、明らかに超越的な能力だった。全人類の知識にアクセスすることのできる能力である。私はあっけにとられた。

休み時間に、先生がサインをしてくれると言うので、買ったばかりの本を持って列の最後に並んだ。

「あなたは人々の健康のために、身体的な医療と霊的な領域とをつなぐ役割があります。」並木先生は私の顔も見ないですらすらとコメントを入れ、サインをくれた。書き終わるとゆっくりと私の顔を見ていった。

「と、あなたのハイアーセルフが言っています。」

握手して、ハグしてくれた。

まったく初対面の、まだ一度も会話したこともない無名の参加者に対して、まるで大昔から知っているかのような親密さで接してくれた。私は、ただただ驚きで一杯だった。

私が、この事実を理解するまで10年の月日が流れていた。だが、この簡単な事実は、まだ世間では知られていない。もし本当に知ったら、世の中が一変してしまうほどの衝撃的な事実なのだ。

2.アトキンスダイエット

 2008年(平成20年)のある日、私はいつものように外来で診察をしていた。そこへ40歳代の女性がやってきた。彼女は糖尿病だがあまり真面目に治療に取り組んでいるとは思えなかった。数か月に1回、ふらりとやってきては糖尿病の食事療法について一談義するのだった。

「低炭水化物ダイエットがやりたいのですけど、ダメですか?」

今でこそ糖質制限として有名になったが、当時はほとんど顧みる人もいないダイエットだった。彼女はこのダイエットを始めたかったのだろう。繰り返しやってきては私に尋ねた。とうとう私も根負けをして、調べてみることにした。

有名なのは、アトキンスダイエットだった。彼は極端な糖質制限によって、みるみる体重を低下させることに成功した。その成功の秘密は、ケトン体だと見抜いていた。ところが、当時ケトン体は、医療者と糖尿病患者の間で恐れられていた。糖尿病性昏睡の時にケトン体が上昇するためである。

人間の細胞は、実は2つの栄養源を持っている。一つはもちろんブドウ糖だ。もう一つがケトン体だった。ブドウ糖は誰でも知っている。脳の唯一の栄養はブドウ糖だとしばしば宣伝されて、頭脳パンなどという商品すらできている。ところが、実は脳が利用できる栄養はもう一つあったのである。

医師も栄養師もなぜかもう一つの栄養源を無視していた。その原因の一つが、糖尿病性昏睡の代名詞にもなるケトン体の悪い印象だった。

実は、私たちの体はケトン体の方を効率よく利用できるように設計されている。考えてみよう。マラソンランナーは、2時間以上走り続ける。その間ブドウ糖だけで必要な燃料を補給できない。ブドウ糖として体内にたくわえられているエネルギーは、グリコーゲンと呼ばれわずか1,000kCalに過ぎないのである。その1,000kCalを使い果たすと、本当の無尽蔵のエネルギー源が活性化する。それが、ケトン体だ。

ケトン体は脂肪酸から合成される。脂肪酸のもとは体に蓄積された脂肪だ。1㎏の脂肪は、9,000kCalを供給できる。しかも、脳も筋肉も極めて効率よくケトン体を吸収し、エネルギーに変換できるのだ。

アトキンスは、そこに着目した。ケトン体代謝を活性化するにはどうしたらよいだろうか。炭水化物を制限すればよいのだ。身体は蓄えていた1,000kCalを使い切ってしまうとケトン体代謝を始める。脳は活性化し、身体が軽くなったように感じる。そして、みるみる痩せていくのだ。

1970年代、アトキンスダイエットは、ローカーボと言われてアメリカで大流行をした。アトキンスは低炭水化物のダイエット食を販売し大成功した。そのアトキンスが、2003年雪の日に転倒した。ICUに救急搬送されたアトキンスは昏睡のまま亡くなった。ダイエットの副作用のために亡くなったのではなく、頭部外傷、うっ血性心不全が原因だと公表されている。しかし、潮が引くように人々はアトキンスを離れていった。ほどなく会社も倒産した。

後に史上最悪のダイエットと批判されるようになった。それは、このダイエットをすると動脈硬化が急激に進行すると、動物実験で証明されたからである。

私は、まずは自分で経験してみようと早速取り組んでみた。すると、面白いように体重が減るのだ。1週間で2,3㎏体重が減少した。わずか1ヵ月で10㎏近く痩せてしまった。急激な体重減少に、周りの人が心配するほどだった。

だが、どうして動脈硬化が急激に進行するのかは解明されていなかった。私は、10㎏減量してスリムになった体で、糖質制限を続けることを止めた。体重は減るが、本当に健康に良いかどうか分からないからだった。

3.グリーンスムージー

 3年後、私は極端な体調不良に襲われた。まず、仕事中に眠気が襲ってきた。それは必死に抵抗しても抵抗しきれない眠気だった。前日8時間眠っていても眠気は容赦なく襲ってきた。特に午後3時ごろが鬼門だった。

 「先生、起きてください。」

 不覚にも患者に起こされてしまった。

 「お疲れなのでしょう。」

 「いえ、いえ、あなたのお話が長すぎて、つい眠ってしまいました。」

 訳の分からないこと言って、私は目を開けるのだが、そう言いながら目が三白眼になってしまった。

 次に、物忘れがひどくなった。状況は危機的だった。57歳にして若年性認知症になってしまったと、恐怖した。

 私は、血糖値が上下するせいで眠くなるのではないかと思った。そこで、昼食を弁当に変えた。妻に頼んで極力炭水化物を減らした弁当を作ってもらった。朝食のサンドイッチも、パンを薄切りにした。どんどん薄くしたが、まだ眠気が続いた。とうとうパンを止めて餃子の皮でサンドイッチを作ってもらった。

 ちょうどそのころ、京都高尾病院の江部康二先生がテレビ出演していた。糖質制限食で糖尿病患者を治療して素晴らしい成果を上げていた。その番組に油揚げ料理が紹介されていた。さっそく、妻は油揚げを2枚に割いてピザサンドを作ってくれた。糖質ゼロのサンドイッチができあがった。効果はてきめんだった。不思議と眠気が去っていった。

 しかし、物忘れは続いた。気力は停滞し、倦怠感が襲ってきた。朝ベッドから抜け出ることが難しくなった。まるで泥沼の中からはい出てくるような感覚だった。それは未だかつて経験したことのない倦怠感だった。いつでもだるく、頭はすっきりとしなかった。

 そんなある日、エレベーターで顔見知りの区議会議員と一緒になった。

 「先生、今度議員連中に予防医学の講演をしてください。」

 「予防医学?」

 「うちの連中は、健康を保つ知識がからきしないのです。是非先生お願いしますよ。」

 扉が開くと、議員はじゃまたと出ていった。私は、そう言えば予防医学の勉強をしたことがなかったなと初めて気づいた。

 アマゾンで検索すると、たくさんの本が見つかったが、最初に興味を持ったのはナチュラルハイジーンだった。肉食、加工食品を避けて、酵素を十分に摂取する健康法だった。なかなか理屈にかなっていた。私は早速挑戦した。妻も協力してくれた。とにかく深刻な健忘症を改善しなければならない。課題は大きかった。

 ナチュラルハイジーンを突き詰めていくと、ローフードに突き当たる。まったく過熱しないで食べる方法である。だが、ローフードを一生続けていくことは無理と思われた。また、ベジタリアンにもいろいろあるが、マクロビオティックも独立した健康法として存在していた。だが創立者の桜沢如一は、73才で心筋梗塞のため亡くなった。

 腎臓の末期がんから生還した寺山心一翁は、食事療法としてマクロビオティックを信奉していた。乳がんになったジーン・プラントは、乳がんの原因が牛乳であることを発見して、自分の末期がんを治した。

 調べれば調べるほど、混乱していった。果たして肉が健康に悪いのだろうか。狩猟採集時代には病気は少なかったと、パレオダイエットという石器時代の食生活に戻ろうとする肉食中心の食事療法まで出現している。菜食主義が本当に健康で長寿なのだろうか。世界には、宗教上の理由で菜食主義の人々が大勢いるが、彼らは決して長寿でもなく、健康でもなかった。

 地中海ダイエットも注目に値した。だが本当の世界一の長寿者は、沖縄の人々であった。野菜、魚、そして豚肉を吹きこぼして食べる沖縄料理は最高の食事として脚光を浴びた時期もあった。だが、米軍に占領されると若者たちは次々と早死にするようになった。沖縄県の平均寿命はあっという間に一位から転落した。

 私は、大量の生野菜を簡単に取れる方法として、グリーンスムージーを採用した。ちょうど蝶子さんと園子さんがブームを巻き起こしているさなかだった。妻はすぐにスムージーのコツをつかんで、毎朝作ってくれた。私は、一時は毎朝1リットル以上飲むようにした。カロリーも少ないはずだった。ところが、である。血糖を測ると200以上になった。予想以上に糖質を含んでいた。私は、300mlに制限した。

4.不整脈

 糖質制限と菜食主義は相性が悪かった。菜食主義にすると、蛋白摂取量が減り糖質がどうしても増えてしまう。補うためには大量のナッツを取る必要があった。糖質制限は、肉食と相性の良い食事療法なのだ。私は、糖質制限を止め、菜食主義に乗り換えた。そして、グリーンスムージーを中心とした食生活を始めた。菜食と酵素摂取を心がけるようにした。ナチュラルハイジーンに近い考え方だった。

眠気は起こらなくなった。体重は減少したままだった。記憶力は多少回復した。しかし、回復しないことがあった。不整脈である。私はいつの間にか不整脈に悩まされていた。胸のあたりで動悸が始まると、不快感が全身に伝搬した。心電図では二段脈だった。正常の心拍と期外収縮とが交互に起きていた。もちろん致命的な不整脈ではない。ただ、不快だった。循環器科の友人に見てもらうと、薬を勧められた。けれども薬は避けたかった。原因があるはずだ。

ちょうどその時期に、心房細動のカテーテルアブレーションが日本でも始まった。それは画期的な治療法だった。心房細動を引き起こす細胞は、左心房にあった。4本の肺静脈が左心房に流入する。その場所の心筋細胞は薄くなっており、傷つきやすかった。傷ついた心筋細胞が異常な興奮を始めると心房細動となることが分かったのだ。フランスのボルドー大学ハイサゲールは、この原理を解明しカテーテルで傷ついた細胞から伝達される信号を遮断する方法を編み出した。世界で初めて心房細動を治せるようになったのである。

ご存知のように小渕首相も長嶋茂も心房細動から脳塞栓を合併して倒れた。薬でいくら治療しても、合併症を減らすことはできてもゼロにはできなかったのだ。それを治すことができるようになった。

医師会で開催された講演会は満員の盛況だった。そこで、不整脈カスケードという言葉を耳にした。一度不整脈が始まると滝の水が下に向かって流れ落ちるように落ちていくのだ。期外収縮や右室伝導遅延と言ったごくわずかな変化から始まる。わずかな不整脈は無害であり、かつ治療法がないため無視される。だが、やがて滝の流れを下り始める。そして、頻発する期外収縮や脚ブロックへと進展する。行きつく先は心房細動か完全房室ブロックなのだ。ラッキーなことに完全房室ブロックに行きついた人は、ペースメーカーを装着すると症状は消える。だが、心房細動に行きついた人は、いつ起こるかわからない脳塞栓におびえながら一生薬を飲み続けなければならないのだ。そこにカテーテルアブレーションが登場した。画期的な技術だ。

だが、どちらの治療法も不整脈を治しているのではない。原因はいったい何なのだろうか。

医師会の友人たちと飲み会があった時、友人の一人が私と同じ症状だった。つい二人で盛り上がってしまった。だが、友人は脳塞栓を恐れて始まったばかりのカテーテルアブレーションを選択した。ところが手技がまだ確立していない技術であったせいか、治療中に空気塞栓を起こしてしまった。四肢麻痺を合併し、未だにリハビリをしている。

講演会の後、私は不整脈の原因が食べ物であることを確信した。一層に薄くなった心筋細胞が血液中の毒性物質に触れて、最初に障害されていくに違いない。毎日食べている食べ物の中に、その毒が含まれているのだ。肉なのか? 炭水化物か? 酵素不足か? 食品添加物か? 絶対に原因物質があるはずだった。専門家が見落としている身近な物質が原因に違いなかった。

5.トランス脂肪酸

 原因を求めて調べを進めていくと、サラダ油のトランス脂肪酸に突き当たった。今村光一がたくさんの本を翻訳してその危険性を知らせてくれていた。サラダ油を抽出するために溶剤を加えて加熱し、不純物を除去し、さらに脱臭する工程は、まるで化学工場だった。その過程で脂肪酸は変性し、自然界にほとんど存在しないトランス脂肪酸に変わってしまう。トランス脂肪酸は、細胞膜の構成成分となる。人間の細胞膜が劣化してしまうのだ。

 だが、自然界にもトランス脂肪酸は存在した。牛が胃袋で牧草を反芻しているうちに、胃の中でトランス脂肪酸が生成されるのだ。自然界のトランス脂肪酸は無害であることが証明されている。だが、人工的に加熱して作られたトランス脂肪酸だけが病気を引き起こすのだろうか?

 2008年、ニューヨーク市長のブルームバーグが画期的な施策を実施した。ニューヨーク市内のレストランでトランス脂肪酸を提供することを禁止したのだ。3年間の準備期間を経て実施されると、途方もないことが起こった。ニューヨーク市民の平均寿命があれよあれよという間に上昇し、ついに全米一長寿の都市になってしまったのだ。慢性虚血性心疾患の死亡率が35%も減少した。

 アメリカは、加工食品にトランス脂肪酸の含有量を表示するように義務付け、ついに2018年全米でトランス脂肪酸を禁止した。その結果、アメリカ人は世界一の長寿になっただろうか? そうはならなかった。この政策にはからくりがあったのだ。

 サラダ油の原料は、菜種、大豆、綿、トウモロコシなどである。抽出される油は、多価不飽和脂肪酸である。これは必須脂肪酸であり、サラダ油がかつてもてはやされお中元に選ばれた理由でもある。ところが、多価不飽和脂肪酸を加熱するとトランス脂肪酸になってしまうのだ。トランス脂肪酸の毒性がやり玉に上がっていたため、業界は代替品を探した。そして見つけたのが、パーム油だった。パーム油は飽和脂肪酸であるため、加熱して抽出してもトランス脂肪酸ができない。2005年ごろからパーム油の消費量が全世界で激増した。トランス脂肪酸を含む植物油の代わりにパーム油を使うようになったのだ。日本でもパーム油が大量に消費されている。

 しかし、加熱して精製されたパーム油は、今までのサラダ油と同等の毒性があった。では、加熱精製した油の何が毒なのだろうか。なかなか正体がつかめなかった。何故なら、20年以上摂取し続けて初めて病気が現れてくるのだ。動物実験では、長期間の実験はどんどん行われなくなっている。費用がかかりすぎるのだ。

6.ナポレオン三世

 植物油が初めて精製されたのは、1911年アメリカだった。クリスコがついに精製に成功した。ナポレオン三世が科学者たちに植物油を精製するように命じたのは、フランス革命後の頃、1850年代だった。当時産業革命が始まり、農村から人々が次々とパリに流入してきた。人口が激増し、バターが不足した。ナポレオン三世は、バターの代替品を植物から作るように命じたのだ。科学者たちは果敢に挑戦したが、出来上がったものは臭くて食べられる代物ではなかった。

 そしてついにクリスコが成功したのだ。実に50年以上が経っていた。この油は今までの油とは全く違っていた。長期間店晒しにしても酸化することがなく、安価だった。瞬く間に全世界に広まっていった。それまでは天ぷらや揚げ物、ケーキやクッキーを食べられるのは金持ちだけだった。

 そして人類に異変が起きた。その異変に気づいた人がいる。歯科医のウエストン・プライスだ。当時持ち運びのできるカメラが開発された。彼はその小型カメラを持って世界中の先住民を訪ねて、歯と口の状態を調べたのだ。すると、西洋文明に触れたとたんに彼らの顔貌が激変することが分かった。虫歯が激増し、頬骨が変形し、顎が小さくなり、鼻呼吸ができなくなり、乱杭歯になっていた。世界中どこに行っても同じ変化が見られたのだ。

1939年プライスは、『栄養と身体的退化』と題して本を出版した。彼は、原因は精製小麦粉だと疑った。だが、文明国から船で運ばれる物資の中に、安価で美味しい植物油が混じっていたはずだ。

 ポッテンガーは、1932年から動物実験を行い、加工肉の有害性を報告した。彼は900匹のネコを10年間飼って実験した。今では到底不可能な実験だ。ネコを2群に分け、一方のネコには生肉を与え、一方には加工肉を与えた。生肉のネコは、健康だった。加工肉のネコは、晩年になって関節炎に悩まされ、怠け者になった。1年後2代目が生まれると、中年から関節炎になり、協調性がなくなった。3代目になると、早期から関節炎にかかり、生まれつきの失明、短命が見られ、90%以上にアレルギーが見られた。さらに、顔面骨の変形まで認められた。四代目は生まれなかった。

 食べ物が骨格まで変えてしまうのだ。人類は既に110年にわたって植物油を食べ続けている。今生きているのは、4代目、5代目の人々だ。喘息、花粉症、アトピーなどのアレルギーが激増し、顔面骨が変形し、乱杭歯となり、鼻呼吸ができなくなった。関節炎は蔓延し車いすの老人が激増している。プライスとポッテンガーが予見した時代を、まさに私たちは生きているのだ。

7.認知症と糖尿病

 ついにサラダ油に含まれる毒が発見された。脳神経科学者の山嶋哲盛は、サラダ油に含まれるヒドロキシノネナールが選択的に脳神経細胞を破壊することを発見した。ヒドロキシノネナールが細胞の自己死を誘導するのだ。ほかの細胞は再生するが、脳神経細胞は再生できない。肉体は元気なのに、海馬や脳神経細胞がどんどん死んでいく。認知症発生の原理を発見した。

 山嶋は研究をまとめて本を出版しようとした。編集者は誰も素晴らしい内容だと評価し、感銘を受けた。ところがどこの出版社も引き受けてくれない。ついに見つかった出版社が教えてくれた。

「雑誌を出版している会社は、製油会社と敵対したくはないのです。公告がもらえなくなってしまいますからね。うちは、雑誌を扱っていないから出版できるのですよ。」

 製油会社もよく知っている。販売しているサラダ油には、ヒドロキシノネナールはほとんど含まれていない。完全に精製してあるからだ。ところが、加熱するとどんどんヒドロキシノネナールは増加する。つぎ足しの油が危険な理由だ。

 農林通産省が素早く対応していた。外郭団体の農研機構が天ぷら油のつぎ足しでどの程度ヒドロキシノネナールが発生するかを調べてネットに報告したのだ。数日で倍となり、50日後には極量までヒドロキシノネナールは増加する。揚げ物専門店の油程、有害アルデヒドを大量に含んでいるのだ。

 山嶋の研究と認知症の発生過程はよく一致する。認知症状が始まる20年も前から脳の変性は始まっていることが分かっている。極めて微量なヒドロキシノネナールが脳神経細胞を徐々に破壊し、症状を現すのに数十年を要するのだ。

 名古屋市立大学の奥山治美は、長年にわたってサラダ油の毒性を研究してきた。そしてついにヒドロキシ型ビタミンK1が骨のオステオカルシン活性化を阻害することを突き止めた。その結果広範な異常が発生することが予想された。骨粗鬆症、糖尿病、学習障害、心臓病、内分泌かく乱など、悪影響は多岐にわたる。

 糖尿病の原因は、サラダ油に含まれる微量有害物質だと言うのだ。今まで糖尿病の原因は高血糖だと信じられてきた。ところが、血糖値を正常化しても糖尿病合併症は予防できない。血糖値が上昇を始める前から、腎臓に障害が発生していることが分かってきた。糖尿病の本当の原因は何なのだろうか。長年専門家は探求を続けている。動物実験でも植物油を与え続けると、糖尿病そっくりな腎臓病変ができることが分かっている。

 現在糖尿病患者は激増している。たくさんの画期的な治療法が次々と生まれている。にもかかわらず糖尿病患者は増える一方だ。本当の原因を見過ごしているためだ。

 そしてサラダ油にはまだまだ未知の有害物質が含まれているが、正体は不明だ。有害性を証明するために膨大な時間と予算を必要とするためだ。

8.マインドコントロール

 まわりまわってやっと私は自分の体調不良の原因を突き止めることができた。分かれば対策はそれほど難しくない。加熱して精製された植物油を避ければよいのだ。サラダ油ドレッシング、マヨネーズを真っ先にやめた。問題は加工食品だ。天ぷらや揚げ物は食べない。ドーナツやカレーパンもやめた。袋の裏の原材料を良く見るようになった。植物油脂、食用植物油、菜種油、大豆油、マーガリン、ショートニングなどは全部植物油だ。

 すると不整脈が徐々に消えた。そう、完全に消えたのだ。菜食主義やグリーンスムージー、玄米酵素療法では改善しなかった不整脈が消えたのだ。いつの間にか倦怠感もなくなっていた。眠気も減り、頭もすっきりした。物忘れが減ってきたのが一番うれしかった。

 物忘れとは、人類の悲しい宿命だと思っていた。努力して覚えても覚えても忘れてしまうのだ。そのうち覚える努力をやめてしまう。もはや行き当たりばったりだ。だが、そうではなかった。植物油が脳神経細胞を破壊していただけなのだ。実は脳神経細胞は再生できることが分かってきた。再生できないのは、植物油を摂り続けているからだ。

 ある日、ケニア人の視力が10.0だとテレビ番組で取り上げられていた。彼は、走る電車の中から富士山頂にいる人が見えるのだ。驚異的な視力だ。その時気づいた。人間は誰でも視力10.0で生まれてくるはずだったのだ。ところが、代々サラダ油を食べ続けてきた現代人は、胎児の時から既に視神経が障害されている。日本人がとりわけ目が悪いのではない。100年以上サラダ油に漬物になっていた結果なのだと、気づいた。

 乱杭歯も口腔崩壊と言われて久しい。これも、永年のサラダ油摂取の結果である。現代人は鼻呼吸ができない。睡眠時無呼吸症候群が当たり前になった。それも顔面骨格の退行変性の結果だ。『栄養と身体的退化』でウエストン・プライスが指摘した通りなのだ。だが、人類は見事に植物油の毒性を見落としている。どうしてだろう。

 実は発見のチャンスは何度もあったのだ。だが、故意に無視し続けてきた。

 第2次世界大戦後、アメリカでは心筋梗塞が大流行した。死因のトップが心筋梗塞である。解剖すると冠動脈にべったりとプラークがついている。大動脈も分厚く肥厚したプラークで見るも無残だった。そこへ朝鮮戦争が起こった。たくさんのアメリカ兵が亡くなった。まだ20歳そこそこの彼らを解剖すると既にいつ詰まっても不思議でない程の動脈硬化が起きていた。一方北朝鮮の兵士も亡くなった。彼らの血管には全く動脈硬化はなかった。

 その時軍医のトップは、アンセル・キースだった。彼はプラークを分析し当時初めて測定が可能となったコレステロールを検出した。コレステロールこそ動脈硬化の正体だと彼は直観した。コレステロールを含むのは動物性脂肪である。肉食が動脈硬化の原因だと彼は考えた。

 そこで各国の脂肪の摂取量と心疾患死亡率をグラフにプロットした。すると、見事に直線的な相関関係が現れた。だがそこにもからくりがあった。彼は22件あったデータの中から、7件だけを抽出したのだ。動物性脂肪を減らし、植物油を積極的に摂取する新しい栄養療法の効果が調査された。その結果は期待通りにはいかなかった。

 1982年アメリカで行われたMRFIT研究では、飽和脂肪酸摂取量を減らし、植物油を増やす新しい栄養療法を比較したところ、高血圧のある群では総死亡率も心血管疾患死亡率も増加した。1995年フィンランドの調査(ヘルシンキ・ビジネスマン研究)でも、心疾患死亡率は対象と比べて2倍以上になった。2001年日本でも同様の研究が行われた。J-LITでは、リノール酸(植物油)摂取量を増やす栄養指導を行った群では、3倍近い死亡率となった。

 コレステロール原因説は急速に勢いを失ったのである。本来ならここでリノール酸(サラダ油)の毒性に気づくはずだった。

ところがそこにとんでもない薬が現れた。1973年、日本人の遠藤章が開発したスタチンである。スタチンは代謝の中心にあるコレステロールの合成を初めて抑えることに成功した。製薬会社が飛びつき、1989年から新薬が次々と発売された。今まで難攻不落だった血中コレステロール値が面白いように下がり始めた。医者も飛びついた。動脈硬化のコレステロール原因説が再び息を吹き返した。

 スタチンを使った大規模臨床試験が行われた。大規模臨床試験、それは巨大製薬会社の独壇場だ。莫大な費用と時間のかかる試験を一介の学者が実施することはできない。有名学会誌に有名大学の有名教授がこぞって論文を載せた。スタチンの有効性が証明されていった。学会では大規模臨床試験の成績が綺羅星のごとく紹介された。次々と発表される素晴らしい成果に、動脈硬化も心筋梗塞もやがて克服されるのではないかと期待が膨らむ。医療関係の情報誌には、スタチンの広告が必ず掲げられる。瞬く間にスタチンは全世界で売り上げ第一位になった。動脈硬化、心筋梗塞予防、脳梗塞予防のゴールドスタンダードに躍り出た。

 日本ではさらに徹底している。健康保険の健診制度にメタボ健診が組み込まれたのだ。連日テレビでは、悪玉コレステロールの有害性が討論された。心筋梗塞には縁のないうら若い女性まで、健診で悪玉コレステロールが基準値より高いと薬を飲むように勧められる。こうして、巨大なマインドコントロールシステムが出来上がる。最早誰一人、スタチンの有用性を疑う者もいなくなるはずだった。

 だが時々ほころびが出る。ヨーロッパでは大規模臨床試験に製薬会社の介入があったことが露呈した。2004年以降、大規模臨床試験に製薬会社が参加することが禁止された。すると新しい試験では、スタチンの効果が薄れてしまった。

 日本でもしっぽが見え隠れしている。有名なのは、血圧降下薬の臨床試験に製薬会社の統計技術者が介入し、データの改ざんが行われた事件だった。慈恵医大や京都府立医大を舞台にした事件が発覚し、製薬会社が謝罪している。

 サラダ油の毒性は未だに知られていない。過熱して精製された植物油に含まれる微量毒素によって、認知症が急増し、花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎がこれほどまでに急増している。子供たちは乱杭歯に悩み、歯科矯正が当たり前になった。鼻呼吸ができなくなり睡眠時無呼吸症候群が蔓延している。糖尿病は急増し、合併症のため失明する人、透析を受ける人が激増している。国民医療費は高騰し、国庫を破綻に追い込んでいる。

 しかし、それだけではない。サラダ油はがんも誘発しているのだ。動物実験では、大豆油や菜種油で極めて高い発がん率が証明されている。しかもサラダ油の摂取量に比例して、癌の発生率も高くなるのだ。

 コレステロール悪玉説の悪影響は、人類全体を蝕んでいる。数十年前から、バターは動物性で体に悪いから植物性のマーガリンを食べましょうとキャンペーンされている。その結果が、現在の慢性疾患蔓延の元凶だった。

 1月6日並木先生が「サラダ油は毒です。」と演壇で語ったことは、人類にとって深遠な警告だった。過熱して精製した植物油を摂取することをやめましょう。なんど言っても足りないほど大切なことだ。

9.ALS(筋萎縮性側索硬化症)

 スタチンは、副作用が少ないと思われてたくさんの人が気軽に飲んでいる。スタチンを飲めば簡単に悪玉コレステロール値が減少し、動脈硬化が改善すると信じて。だが、スタチンには恐ろしいほどの副作用がある。

 まず、能書きを読んでみよう。筋肉痛が起こり、時に重篤な横紋筋融解症を合併すると警告が出ている。さらに、スタチンは糖尿病や認知症の頻度を上げると記載されている。かつてアメリカのメディアがスタチンの副作用を特集した。そこには、筋肉痛のため歩けなくなった人、認知症になった人など悲惨な実例が描写されている。以前はユーチューブで見ることができた。

 デュアン・グラヴェリンは、NASAの宇宙飛行士だった。年1回の健康診断では完璧な結果を要求される。彼は総コレステロールが少し高かったために、スタチンを飲むように勧められた。すると突然一過性全健忘に襲われたのだ。彼は、森を徘徊し家族に保護されたが、まったく覚えていなかった。NASAの医師と相談しスタチンをやめた。1年後の健康診断で同じ結果が出た。医師は半量にしてスタチンを飲むように指示した。6週間後再び一過性全健忘に陥った。最早間違いなかった。彼は、世界中の同様の症例を集めた。すると実に多くの人が副作用に苦しんでいた。2006年、彼は『リピトール:記憶を盗むもの』を出版して事実を公表したが、ほとんど注目されなかった。そして、ついに彼はALSを発症してしまった。スタチンの重篤な副作用にALSがあるのだ。

 弟が相談に来た。手足が震える。足と臀部がびりびりする。しっかり歩けなくなってしまった。まだ50歳代なのに、老人のように痩せて衰えてしまっているではないか。症状を聞いて、私はまずALSを疑った。大学病院の専門医に通院していた。ALSではないと思うと何度も言われたという。一度ALSですと言ってしまえば、二度と再び治ることがない神経難病だ。

 私は、弟の病歴を詳しく聞いた。すると6か月ほどスタチンを飲んでいるではないか。私はスタチンをすぐさま止めるように言った。そして、スタチンによって激減するコエンザイムQ10のサプリメントを勧めた。サラダ油の摂取をやめ、亜麻仁油を取るようにしてもらった。効果はなかなか出なかった。だが辛抱強く治療を継続した。すると、半年くらい経ったころだろうか、3%良くなったと連絡が来た。私は小躍りした。この3年間悪化の一途をたどっていたのだ。それが3%でも良くなったと感じるようになった。やがて薄皮をはがすようにゆっくりと病状は改善した。

10.オリーブオイルと米油

 オリーブオイルは、サラダ油ではない。一価不飽和脂肪酸であり、多価不飽和脂肪酸とは区別されている。オリーブオイルは安全なのだろうか? 私は低温圧搾法で抽出されたいわゆるエクストラバージン・オリーブオイルは安全だと考えている。ところが、全世界で生産されるエクストラバージン・オリーブオイルの倍量が販売されている。つまり過熱して精製したピュア・オリーブオイルが混ぜられているのだ。どうしたら本物だと分かるだろうか。ブランド会社のものやある程度値段の高いものを買うしかないだろう。見ただけでは分からないのだ。

 ドレッシングは、ノンオイルを購入してオリーブオイルか亜麻仁油を適量混ぜて使えば困らない。炒め物にはオリーブオイルが使える。揚げ物は、通常ココナッツオイルか米油を用いる。オリーブオイルを使うこともできるが、一度使った油は再利用しないほうが良い。

 オリーブオイルの安全性は長い伝統で保証されている。製造方法もきちんと管理されている。ミッシェル・ド・ロルジュリルは、地中海ダイエットの調査の指揮を執った人である。地中海ダイエットでは、心血管病のリスクが72%減少した。主な脂肪源がオリーブオイルであった。

そのロルジュリルが、『コレステロール 嘘とプロパガンダ』の中で巨大製薬会社の販売戦略を手厳しく指摘している。彼らの手の内を知り尽くしたロルジュリルの謎解きは探偵小説のように興味深い。

米油も安全な油として人気が高い。かつて米油は地方の小さな製油所で細々と作られていた。ところが安全で使い勝手の良い油として広まると、新しい製油会社が参入してきた。もしあなたの使っている米油に低温圧搾と表示されていなければ、それは過熱して精製した油だ。その中に未知の有害毒素が生成している可能性が高いので、お勧めできない。油は、あくまでも過熱しないで低温圧搾したものを使用すべきである。

賞味期限も大事だ。オリーブオイルは冷蔵庫に入れると白濁して固まってしまう。室温で保存するので、必要最小限のものを購入し手早く使い切る習慣をつけよう。3か月以上たったものは、酸化しているので使わない。

11.ココナッツオイルとケトン体

 私はココナッツオイルのファンだ。もちろん低温圧搾で抽出したものを摂取している。東南アジア、熱帯地方で長い伝統のあるココナッツオイルは、とても体に良い。しかもラウリン酸やカプリン酸、カプリル酸などの飽和脂肪酸が60%以上含まれている。つまり酸化しない油だ。

 かつてアメリカでは、肉類などの動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸が動脈硬化の原因だと考えられていた。実際飽和脂肪酸は、常温で固形となる。日本では常温で固形となるものに脂という漢字を当てている。ココナッツオイルも25度以下で固形となる。いかにも動脈の壁にこびりついた脂の印象である。ラードやフェットと同じようにココナッツオイルも食卓から排斥された。そのため悪い印象がこびりついてしまった。

 しかし、ココナッツオイルにはてんかん治療で処方されてきた長い歴史がある。かつてはてんかん発作を予防する良い薬がなかった。その時代、ココナッツオイルによる高脂肪食が最後の手段だった。子供たちのてんかん発作が見事に抑えられたのである。その長い治療歴によってココナッツオイルの安全性は保証されている。

 小児科医のメアリー・ニューポートは、ご主人の認知症にココナッツオイルが効くという話を聞いた。当時認知症に有効な薬はなかった。新しい薬がどんどん開発されていたが、ご主人は認知症が進みすぎていて治験に参加できなかった。彼女は少しでも症状を軽快させて何とか治験に参加したかった。そこで30gのココナッツオイルをご主人に飲ませた。すると効果はてきめんだった。言葉も覚束なく、動作も緩慢だった彼が、掃除までこなせるようになったのだ。彼女はココナッツオイルの効果を調べ上げた。すると、ココナッツオイルは中鎖脂肪酸として腸管から吸収されると肝臓でケトン体に分解され全身に回ることが分かった。ケトン体はエネルギー源として脳細胞に直接吸収されるのだ。

 実は、認知症の人はブドウ糖代謝が壊れていて、細胞の栄養が枯渇した状態だった。エネルギーの枯渇によって後は死ぬだけの状態になっていた脳細胞に、ケトン体がエネルギーを与えたのだ。彼女が本を出版すると、全世界から反響があった。奇しくも彼女は脳細胞の第2の代謝回路を再発見したのだ。かつてアトキンスがケトン体の有用性を指摘したが、動脈硬化を進展させてしまったために唾棄されていた。

彼女の発見は、認知症に別の角度からの光を与えた。脳細胞の代謝の側面である。ブドウ糖代謝の壊れた脳細胞は、云わば燃料切れの状態にある。只死を待つだけの状態だったのが、実はもう一つの代謝回路が残っていたというわけだ。だがこの回路は簡単には発動しない。前にも述べたようにグリコーゲンという1,000Kcalのブドウ糖を使い切るまでケトン体代謝は発動しないのだ。それが中鎖脂肪酸という特殊な代謝経路を持つ脂肪酸によって簡単にケトン体代謝を活性化できるようになったのだ。

さて、ではどうしてブドウ糖代謝が壊れてしまうのだろうか。その原因こそ植物油に含まれるなんらかの物質にあると思う。それは未だに解明されていない。しかし、中年を過ぎるとほとんどすべての人でブドウ糖代謝の効率が悪くなっていく。その代表が糖尿病患者なのだ。ブドウ糖はインスリンの存在下で細胞膜から細胞内に取り込まれていく。糖尿病では、インスリン自体が不足することもあるが、インスリンが存在していても細胞膜は上手にブドウ糖を細胞内に取り込めなくなっている。所謂インスリン抵抗性だ。思い出してほしい。トランス脂肪酸は自然界にはほとんど存在しない異形の脂肪酸だ。そのトランス脂肪酸が細胞膜を構成しているのだ。何らかの細胞膜の機能障害が起きても不思議ではない。すると細胞はエネルギー枯渇状態に陥る。何とかして細胞内にブドウ糖を送り込もうとするのが、糖尿病治療薬だ。

一方、細胞にはもう一つのエネルギー回路がある。ケトン体回路を活性化してあげれば、細胞は容易にエネルギーを獲得できる。それが糖質制限食であった。高尾病院の江部先生が成功しているゆえんである。

糖質制限食はマニアックな食事療法だ。特に肉食を好まない人には合わない。グリコーゲンは1,000kCalしか体内に存在しない。半日だけ糖質を取らなければ、ケトン体代謝が活性化するのだ。中年を過ぎた人たちが簡単にケトン体代謝を活性化する方法がある。それは、朝食と昼食だけ糖質を制限するのだ。すると夕食後から次の夕食まで実に23時間程度糖質が体の中に入ってこない。いやでもケトン体代謝が活性化してしまう。

食後に眠くなる人は、一食だけ糖質を抜いてみてほしい。その後眠気が起こらないことに気づくだろう。

実は空腹感は、血糖値の上下によって引き起こされている。糖質を摂取すれば必ず血糖が上昇する。上昇した血糖はインスリンによって正常値に戻される。この時空腹感を覚えるのだ。糖質を抜いたり、一食抜いたりしてみるとすぐ分かる。次の食事の時間になっても空腹感を覚えないのだ。それは血糖値が上下していない証拠でもある。

12.おやじダイエット俱楽部

 ではなぜアトキンスダイエットは史上最悪の栄養療法と言われたのだろうか。

 桐山秀樹は、長年肥満と糖尿病に悩まされていた。酒好きだった彼は、酒をやめないで痩せて糖尿病を直す方法を探した。そして、糖質制限食に行き当たった。酒の中では、蒸留酒が糖質を含んでいない。ウイスキーと焼酎だ。酒の肴には、糖質を含まないものがたくさんある。干物や魚介類、卵、豆腐、納豆、漬物などなど。桐山は、大好きな酒を飲み続けながら、みるみる痩せていった。同時に血糖値も改善した。3か月で15㎏痩せたのだ。あれほど苦労しても全く変化しなかった体重が、いとも簡単に痩せた。感激した桐山は、仲間のジャーナリストや友人たちに糖質制限食を紹介した。すると皆同じように苦労することもなく痩せていった。ついに彼はおやじダイエット倶楽部を創設し、全国で講演をするようになった。本も何冊も書いた。料理本も作った。そんな絶頂期の彼が、ある日ホテルの一室で亡くなっていた。心筋梗塞だった。糖質制限食を初めてわずか5年の悲劇だった。

 テレビをつけるとちょうど江部先生がインタビューを受けていた。

 「どうして桐山さんは、心筋梗塞になったのですか。」

 江部先生は動じることなく言い放った。

 「彼はもともと糖尿病だったのです。人よりも動脈硬化になりやすかったのです。」

 糖質制限食の危険性に関する注意はなかった。

 そう、実際糖質制限は極めて危険な食事療法なのだ。なぜなら、3大栄養素のうち糖質を極端に減らしてしまうからだ。当然全カロリーに占める脂質とタンパク質の比率が上がる。特に脂質の量が増えるのだ。ところが、現代人が食べている脂質のほとんどは植物油である。天ぷら、揚げ物、油揚げ、サラダ、サンドイッチなどなど、ありとあらゆるものに植物油が塗り込まれている。動脈硬化を促進させるリノール酸を大量に摂取すれば、行きつく先は決まっている。

 糖質制限をする人は、植物油を極力減らさなくてはいけない。細胞膜に組み込まれたリノール酸が代謝されてアラキドン酸となり、そのアラキドン酸からプロスタグランジン、ロイコトリエンなどの炎症性ケミカルメディエーターが合成されるのだ。動脈硬化は炎症から進展する。リノール酸リッチの食生活では、炎症という火を体の中で燃やしているようなものだ。

それに対して、亜麻仁油やえごま油、魚油のEPA、DHAは、ω3脂肪酸と呼ばれて炎症を鎮める作用がある。江戸時代の日本人は、ω3脂肪酸とω6脂肪酸(リノール酸)の比率が、1対1だったと言われている。現代人はそれが1対5~10に偏っているのだ。これでは、いくら亜麻仁油やえごま油を摂取しても焼け石に水だ。まずはリノール酸を減らすことから始めなくてはならない。それが、「引き算が大事だ。」という意味である。

13.菜食主義

 菜食主義は果たして最良の健康法なのだろうか。菜食主義者が必ずしも長寿ではないし、健康なわけでもない。それは、知らず知らずのうちに大量の植物油を摂取してしまっているからではないか。

 それでは、ローフードはどうだろうか。生で野菜を食べるのだ。もし植物油を大量に使っていれば、彼らも落とし穴に落ちている。ヴィクトリア・ブーテンコは、有名なローフーディストだった。彼女はロシア出身である。ソ連邦崩壊のあと、家族でアメリカに移住してきた。そこで彼女が見たのは膨大な食品がきれいに並べられたスーパーマーケットだった。どの食品にも健康に良いと書いてある。一家はアメリカ食品を買いあさった。その結果体重増加、甲状腺疾患、糖尿病、喘息などなど、ありとあらゆる病気にかかってしまった。

 もう一度健康になりたいと願う彼女が最後にたどり着いたのが、ナチュラルハイジーンだった。冷蔵庫にある加工食品をすべて捨て、酵素たっぷりの生野菜、果物、ナッツ中心の食事に変えた。一家はみるみる健康になった。彼女は本を書き、有名なローフーディストの仲間入りをした。

 ところが、である。数年すると彼女に体調不良が訪れた。再びヴィクトリアの挑戦が始まった。もっと先に戻ろう。彼女がお手本にしたのはチンパンジーだった。生の菜食だけであの強靭な身体能力を維持できているのだ。だが、ヴィクトリアはどうしても生の野菜を食べ続けることができなかった。試行錯誤を続ける彼女に光が訪れた。生野菜と果物を一緒にミキサーにかけてみたのだ。青々とした緑の液体が出来上がった。彼女は恐る恐る飲んでみた。「うまい!」思わず彼女は叫んでしまった。見かけは緑のジュースなのに、甘いのだ。こうしてグリーンスムージーが生まれた。

 日本にも蝶子さんと園子さんが紹介した。私たちは、彼女たちと意気投合してしまった。数年すると、あれほど活躍していたヴィクトリアがロシアに戻ってしまった。私には理由が分からなかった。そして、2015年ヴィクトリアがロシアから来日することが決まった。期待はいやが上にも盛り上がった。

 ところが、会場に入ってきたヴィクトリアは健康とは程遠い姿だった。太りすぎており、股関節が悪いのか足を引きずっていた。しかし、講演は素晴らしかった。いつもながら真実の探求だった。彼女は正直だった。

「世界で有名な3人のローフーディストが集まった時、彼女たちのように熱心に徹底的に取り組んだ人たちよりも、手を抜いていた人たちの方が健康かもしれない。」それが、彼女たちの結論だという。

ヴィクトリアの娘も熱烈なローフーディストだった。ところが、極度の貧血に悩まされていた。病院を何カ所も受診したが、鉄の血中濃度は正常であった。原因不明の貧血と言われて治らなかった。ヴィクトリアはいつものように猛烈に調べ上げた。鉄を利用するためには銅が必要なのだ。ついに原因を発見した。極端な菜食主義では、銅の摂取不足が起きてしまう。ヴィクトリアは銅をたくさん含んでいる食べ物を探した。エビだ。エビには銅がたくさんある。ところが長年の菜食主義者は、エビを食べることを恐れた。かつての苦い経験が脳裏に蘇るのだ。だが、ヴィクトリアも強硬だった。ついに娘にエビを食べさせた。するとどうだろう。あれほど頑固だった貧血がみるみるよくなっていったのだ。

それを見たヴィクトリアも一つの決心をした。実は長い間倦怠感が続いていたのだ。徹底した菜食主義だけでは、何かが足りないのかもしれない。彼女は卵を食べる決心をして、郊外の平飼いの養鶏場を訪ねた。1ダースの生卵を買って自宅で料理するつもりだった。ところが帰り道に無性に卵を食べたくなったのだ。ついに彼女は車を止めると、生卵を食べだした。ひとつ、ふたつ。ついに半ダースを一気に食べてしまった。身体が要求するのだ。身体は不足しているものを知っている。それからのヴィクトリアは、菜食主義者ではなくなっていた。私たちと一緒にレストランに入った時、彼女は肉の混じった料理を注文したのだ。

何が最善の食事療法なのか、誰にも決められない。もちろん残留農薬や食品添加物、水銀などは少ない方がよいに決まっている。悪いものは山のようにある。そのすべてを排除しようとしたら、途方もない困難が待ち受けているだろう。ほどほどでよいのかも知れない。

しかし、最大の毒は過熱して精製した植物油なのだ。これだけは極力排除したほうが良い。それが、私の10年間の遍歴の結論だった。

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